彼女

「しにたいの」

彼女はそう言った。

正確には言葉は発していないが確かにそう伝わった。

彼女は苦しんでいる。誰かの前で涙を流すことも、波に逆らうこともできずに。


「彼女は、夢を見ていたんだ」

桜模様の時計台。その下にいる誰かが、目を細めて彼女を優しく見つめ、小さく呟いた。

僕も、そうだったらいいのに、と思った。

風の強い日だった。

彼女を見つめるあの人はずっと昔から、ほんとうに静かに、穏やかに、泣いていた。今でも泣いていた。真っ黒な服を着て、ずっと立っていた。


僕の足元に一匹の白いうさぎがやってきて、やがて雨が降ってきた。僕は、目を覚ました。

 

 

あれは嘘だった気がする

「頑張らなくていい」は他人の優しい嘘であると気づく。


なんにも考えてないふりをして、思ってもない言葉を並べて、感じたくないことまで感じて、そしてその飲み込んだもの全て吐きだすような感覚。

どうしようもない嫉妬。それは自分は特別じゃないと知ったときの感情。

いつまで、嘘の自分で生きてるんだ。

でも、そんな君、人間らしく見えて。

 

またがいつになるかわからないなんて、そんなことは悲しい。絶対に、なんて言っていいのかわからない。でも嘘なんてついてない。あの時確かに、本気でそう思ったのだ。

先の話など聞きたくないから、

いつか終わりが来るのもわかってるから、

だから今だけは、今の話をしよう。

 

君には君の人生があって、僕がそれに寄り添えればいい。できれば巻き添えにしたい。

そんなことを思ってしまう日もあっていい。

 

 


自分の気持ちなんか他人にわかってもらわなくていいし、わかってほしくないし、自分だけがわかってればいいけど、まだ忘れないでよね。

 

 

 

僕たちの夜

 


今日も僕たちの夜はやってくる。

夜は僕のものだ。きらきら輝いている星がみたいなんて、君と過ごすための口実だ。

静まり返った夜に聞こえてきた、途切れ途切れの声は、僕だけにしか聞こえていない。

特に何も話すことがなくても、あのひとの声が聞きたくなって、あなたが、どこかにいることをなんとなく、確かめたくなって。

だけどやっぱり、静かにひとりで、ただただ夜明けを待ち続ける。

郵便配達の音が聞こえてきて、顔も見えない早起きの彼らに朝を知らされる。

 

 

2018

あの子のことを好きと言っていた同級生に会った。そのひとはもうあの子のことを思ってはいなかった。隣には別の子がいて、楽しそうにしていた。


いろんなことを乗り越えて今があるとしても、

忘れたんだろうなあとか。あのときあんなに必死だった気持ちは、ほんとうの気持ちだったことは確かで、ふと思い出したりするんだろうかとか。どこかで心には残ってるのかなとか。

 

永遠はない。

永遠はないとわかっているから、どこか切ない。

 

 

 

流れ星たちよ


たくさんの星を見た。流れ星を見た。

たくさんのもので溢れている街では見れない星たちだった。

ここで、こんなにたくさんの星が見れることなど忘れていた。

大事なものだったのかもしれない。

明るすぎるあの場所は、ほんとうは存在する星たちまで見えない。

 

この場所が好きだという理由など、

たくさんの星がきれいだということだけで十分だった。

甘いバターの香り

地下改札にただようバターの甘い香り。

たぶん、いままで忘れてきたもの。

そんなものがきっとこれなんだろうなって。

わけわかんないなあ。


あのときはそれが全てで。でももう覚えてなくて。

いつからか、どうしたいとか何考えてるのかとかもわかんなくなってなくなって、ほんとはもうどうでもよかったのに。ぼろぼろだったことも気にしてないふりを続けてたって。

 

冷たい空気の地下に漂うバターの甘い香りだってずっと気づかなかったって。

君が見ていたものは、僕の見ていたものと、同じだったんだろうか。