無題
「僕は先に行くね」
そう言うと、君は少し傷ついた顔をして黙り込んだ。
なぜそういう顔になったのかわかったし、僕のせいだったし、気づいていたけど気づかないふりをした。
僕は不安で仕方なかったのだ。
それで君の優しさに甘えていたのだ。
君の目をまっすぐ見られないでいると、
「じゃあ、そっちで待っててよね。絶対」
拗ねたようにそう言った。
僕は手を伸ばして君の腕を掴んでいた。
でもはっとして、すぐに手を離した。
君は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに少し嬉しそうに、意地悪そうに目を細めて笑って、僕の手を握った。
僕は自分の表情が緩んだのがわかった。
やっぱり君は優しかった。
優しい人は、どうやったら他人が傷つくか知っていて、だから優しくできるんだと、昔、あの子が言っていた。誰よりも繊細で、かつて、たくさん傷ついたことがあるゆえだと。
僕の方が君を苦しみから連れ出したいのに、どうしてまだ、終わらないのだろう。
僕は幽霊になった
幽霊になればあなたの気持ちがわかると思った。君が何を考えているのかわかると思った。あのひとの優しさはいつも静かで、繊細で、でも崩れることはなかったから。
僕は幽霊になった。
君のつむじが見えた。ボサボサの長い髪を大きめのマフラーにうずめて、コートのポケットに冷えた手をつっこんで、家に帰っていった。いつもと変わらない、いつも通りの表情をしていた。
温かかったはずの缶コーヒーが冷たくなっていて、アルミの味がした。苦いなあと思って飲み干した。
君に触れることはできなかったし、あなたが僕を見つめることもなかったし、あの人が僕に話しかけることもなかった。
今日は月がとても近かった。曇った空にぼんやりとにじんで、細い月だったのに、明るかった。
君は夜の街に去って行き、僕の目の前は真っ暗になる
僕は幽霊になったのだ。
ふたご座
僕らの人間関係なんて、ちょっとしたことであっけなくおわる。いつの間にか消えて忘れてしまうことだってあり得る。
崩れる時なんて、一瞬で。それは、ほんとうに些細なことで。それは、そんなに重要なことではなかった。
ふたご座流星群は、去年も見られなかった。
今年も曇ってるし、月も街も明るすぎて星すら見えなかった。
ただ、錯覚のようにひとつだけ目の端を流れた気がした。幻だったと思うけど、君の幸せを祈った。
僕らは不安定で、ふたご座でもないし、ふたご座だったらよかったのかもしれないけど、ふたご座であることはそんなに重要ではなかったから、この時間がずっと続きますようにと願った。
雪は降り続けた。ずっと止まなかったし、大粒の雪が重々しく降り続けていて、あたりは真っ白でなんにも見えなかった。このままよく見えないままで、雪が降り続けばいいのにと思った。
6月の雪
6月に雪が降った。
昔聴いていたバンドの歌詞でも夏に雪が降っていたし、割と最近見た映画でも、夏に雪が降っていたことを思い出して、なんとも言えなくなった。よくあることなんだなと思った。
12月には雪は降らなかったけど、1月は何度か降ったような気がするし、よく覚えてないけど2月はたくさん積もったんじゃないかと思う。
冷たい雪がうっすらと、君の髪についていたりだとか、チリが光って白くなった濃いめの吐く息とか、冷たい空気に触れて赤くなった頬とか。冬の晴れのせいで空気が澄んでいるのか、雪か雨かわからない雫が空気を湿らせているのか、どっちなのか僕にはわからなかった。
いつもにこにこしてて、その子のまつげは上を向いてくるんとしていて、目元や耳たぶがキラキラしてて、綺麗だった。
真っ白2
横向きに寝て床ぺろ白さん
寒いからかキュってなってる大福白さん
真っ白1
にゅぎゅっとして端のあったかいとこにいるし、手がちょっと伸びてるのかわいい