僕は幽霊になった

幽霊になればあなたの気持ちがわかると思った。君が何を考えているのかわかると思った。あのひとの優しさはいつも静かで、繊細で、でも崩れることはなかったから。


僕は幽霊になった。

君のつむじが見えた。ボサボサの長い髪を大きめのマフラーにうずめて、コートのポケットに冷えた手をつっこんで、家に帰っていった。いつもと変わらない、いつも通りの表情をしていた。


温かかったはずの缶コーヒーが冷たくなっていて、アルミの味がした。苦いなあと思って飲み干した。

 

君に触れることはできなかったし、あなたが僕を見つめることもなかったし、あの人が僕に話しかけることもなかった。

 

今日は月がとても近かった。曇った空にぼんやりとにじんで、細い月だったのに、明るかった。

 

君は夜の街に去って行き、僕の目の前は真っ暗になる


僕は幽霊になったのだ。