無題

「僕は先に行くね」

そう言うと、君は少し傷ついた顔をして黙り込んだ。

なぜそういう顔になったのかわかったし、僕のせいだったし、気づいていたけど気づかないふりをした。

僕は不安で仕方なかったのだ。

それで君の優しさに甘えていたのだ。

君の目をまっすぐ見られないでいると、

「じゃあ、そっちで待っててよね。絶対」

拗ねたようにそう言った。

僕は手を伸ばして君の腕を掴んでいた。

でもはっとして、すぐに手を離した。

君は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに少し嬉しそうに、意地悪そうに目を細めて笑って、僕の手を握った。

僕は自分の表情が緩んだのがわかった。

やっぱり君は優しかった。

優しい人は、どうやったら他人が傷つくか知っていて、だから優しくできるんだと、昔、あの子が言っていた。誰よりも繊細で、かつて、たくさん傷ついたことがあるゆえだと。

僕の方が君を苦しみから連れ出したいのに、どうしてまだ、終わらないのだろう。